古来より、人々の生活を下支えしてきた柿渋。
木や糸、紙などの下地に柿渋を塗ることで、家を支える柱を長持ちさせ、
魚をとる網を丈夫にし、衣類にノミやダニを寄せ付けず、
蚕などの益虫を伝染病から守ってきました。これらは柿渋に含まれる
タンニンがもたらす防腐、防水、抗菌の効果によるものです。

柿渋は、盛夏の頃にまだ青い柿の実を収穫して作られますが、
染め上げた色は、秋に色づいた果実を彷彿とさせる柿色を宿しています。
いつ頃から使用され出したのか、定かではありませんが、
正倉院収蔵の屏風袋には、柿渋で描いたような花鳥紋様があり、
千年の時を超えて奈良時代の色味を今に伝えています。(一)

華やかな色合いではないけれど、
使い込むほどに味わいが出てくる柿渋染め。
柿の実に宿る、天然の消毒液とも言うべきタンニンの力。
古より重用されてきた柿渋の魅力を今に伝える『柿布』です。

(一)吉岡幸雄著 日本の色辞典 紫紅社 二〇〇〇 二〇四頁・二十三頁